はじめに
本記事はRemedy Entertainment公式ブログの記事「Alan Wake 2 on PlayStation 5 Pro – Behind The Scenes」の前半部分の翻訳で、Remedy Entertainment社より許可をいただき掲載しております。
オリジナルの記事ではPS5 Proで撮影された画像や通常のPS5版との比較動画などがご覧いただけますので、そちらも是非ご覧ください。
以下より翻訳となります。
『Alan Wake 2』はPlayStation 5 Proを最大限に活用し、ゲーム体験をさらに向上させています。RemedyのNorthlightエンジンチームは、 PS5 Pro向けにレイトレーシングを追加するなど、『Alan Wake 2』を支える技術のアップデートにかなりの時間を費やしました。
ソニーの新しいアップスケール機能「PlayStation® Spectral Super Resolution」、通称PSSRを活用し、『Alan Wake 2』のクオリティモードとパフォーマンスモードはPS5 Proでアップグレードされています。ソニーによれば、「PSSRは機械学習ベースの技術を活用したAIによるアップスケーリングで、映像のディテールを大幅に追加することで、極めて鮮明なビジュアルを実現する機能」とのことです。
クオリティモード
PS5 Proでのプレイ時にクオリティモードを選択した場合、レイトレーシングが有効になります (通常のPS5でのプレイ時はレイトレーシングは有効になりません)。
- レイトレーシング+30fps
- レイトレースによる反射(不透明と透明)
- 出力解像度 3840 x 2160 (4K)
- レンダリング解像度 2176 x 1224
パフォーマンスモード
パフォーマンスモードでは、通常のPS5と比較して出力解像度が大幅に向上し、グラフィックがより詳細に描かれます。このモードでは、通常のPS5のクオリティモードとほぼ同じ画質(レンダー)設定が使用されます。
PS5 Pro では、全体的な映像の安定性、霧、ボリューメトリックライティングや影の表現が向上しています。
- 60fps
- 内部レンダリング設定はノーマルのPS5のクオリティモードの設定とほぼ同じであることから、ビジュアルの精細度が向上します。
- 出力解像度 3840 x 2160 (4K)
- レンダリング解像度 1536 x 864
通常のPS5でのプレイ時は、1440p出力となります。
PS5 Proへの対応
『Alan Wake 2』は2023年10月27日に発売されました。PlayStation 5とSeries Xでは、30fpsのクオリティモードと60fpsのパフォーマンスモードを選択できます。今作のPS5 Pro向けアップデートを検討するにあたり、これらのモードは維持しつつも、改善をしたいと考えました。
画質を向上させる方法を検討する際、GPUが高性能であれば、レンダリング解像度を上げるのが最も簡単であるという結論になるでしょう。
私たちは60fpsのパフォーマンスモードの出力を1440pから4kにアップグレードしたり、PSSR(ソニーのAIベースのアップスケーリング方式)を追加したりと、複数の実験を行いました。そして、これらは映像の鮮明さとモーションの安定性に良い影響を与えました。
内部のレンダリング解像度を上げることは、ハードウェアの性能に依らず、高い処理能力を必要とします。私たちの実験では、強化された処理能力の全てをレンダリング解像度の向上に向けても、出力された映像やその品質に、顕著な違いはほとんど見られませんでした。ピクセル数をより増やして映像品質の向上を図るのは、新しいAIベースのアップスケーリング方式下では効率的とは言えません。
すなわち、「最新のアップスケーラーにどの程度の解像度の画像をくわせれば良い再構成結果を期待できるか」という点において、閾値は存在するということです。コンテンツのスタイルから、画像生成に使用されるレンダリングアルゴリズムの選択に至るまで、多くの異なるパラメーターがアップスケーリングの品質に影響を与えます。各々のエンジンや芸術性は、それぞれ異なる方向に機能します。
『Alan Wake 2』に関しては、単にデータを増やすよりも、ノイズ除去ネットワークに送るシグナルを改善する方が良いと思われました。そのため、 PS5 Proでのパフォーマンスモードのレンダリング品質設定を改善し、通常のPS5でのクオリティモードの設定に近づけました。
このアップグレードされた設定により、『Alan Wake 2』をPS5 Proで遊んだ際は、高いレスポンスレートと、従来よりもシャープで高画質な映像をお届けできるようになりました。
『Alan Wake 2』の映像は驚異的に詳細かつリッチなため、特に前作『CONTROL』と比べると、レイトレーシングへの対応は難しいものでした。しかし、私たちは挑戦好きなのです。ハイエンドPCと適切なグラフィックカードがあれば、『Alan Wake 2』でのレイトレーシングは素晴らしいものになります。それをPS5 Proに実装することができ、とても嬉しく思います。これは性能の高くなったPS5 Proのおかげです。
レイトレーシングが適用されることにより、『Alan Wake 2』の世界のディテールをコンソールでもより「ありのまま」に見ることができ、複雑なライティング下でも映像がより安定するようになりました。
レイトレーシングの解説
私たちは「ゲームに最先端のビジュアルを取り入れたい」と常に考えていますが、フレームレート、映像のクオリティ、技術的・ハードウェア的制約、開発リソース、そして「私たちが芸術という観点で何を実現したいのか」――それらすべてを考慮し、常にバランスを取る必要があります。
『Alan Wake 2』は、通常のPlayStation 5ではレイトレーシング機能を搭載していませんでしたが、Proはスペックが強化され、レイトレーシング機能も向上し、レイトレース反射を不透明な表面と透明な表面の両方でできるようになったため、クオリティモードにレイトレーシング機能を追加することができました。
『Alan Wake 2』には、レイトレーシングの恩恵を受けられる美しいシーンやライティングが存在します。 レイトレース反射は、周囲から動的な間接照明を取り込むことを可能にします。我々のスクリーンスペースの技術と同じように、メインカメラビューのシェーディングや静的な符号付き距離フィールドからの情報のみを使用することに制限されることはありません。
しかし、レイトレーシングの実装は容易ではありません。それぞれの光を追跡し、その「衝突」を計算し、シェーディングする必要があります。レイトレーシングの性質上、ノイズのない画像を生成するには、複数の光を追跡する必要がありますが、残念ながら、ピクセルごとの光を追跡してシェーディングするのは、概して多大なコストがかかります。私たちは、少数のSample Countにより作られるノイズの多い画像を扱わなくてはなりません。つまり、ノイズ除去機能でノイズを除去しなければならないのです。リアルタイムの動作を求める場合、我らがNorthlightのようなゲームエンジンは、通常、少数のSample Countとノイズ除去を頼ります。
使用するハードウェアにはよりますが、複雑に絡んだ光源とリッチな環境を有する『Alan Wake 2』のようなゲームでは、一か所のレイトレーシング効果が正当化できないほど高価になる可能性があります。『Alan Wake 2』 は非常に「高密度」なゲームです。GPU駆動のレンダリングパイプラインと、GPU上で実行されるスキニングによるきめ細かなカリングにより、太平洋北西部の緑豊かな土地でサーガを操作するときに見られる何層にも重なる葉や木々で、密度の高い森林シーンを作成することができました。
メインカメラビューに限定したシェーディングは、不要な作業のほとんどを効果的にカットすることができますが、妥協のないレイトレーシングは画面外にも影響が及ぶため、シーンのオブジェクトの大部分を使用してAcceleration Structureを構築する必要があります。PS5 Proの改良されたハードウェアは、以前は不可能だった最も密度の高いシーンのAcceleration Structureを構築することを可能にしました。
公式ブログに掲載されているスクリーンショットで、レイトレーシングがメインカメラビュー外の情報も使いどのように画像を作り変えるのか、ご確認いただけます。
未圧縮のスクリーンショットはこちらからダウンロードいただけます。